~特集~プロパガンダ映画とは?

映画が持つ、裏の顔

どうも、副会長です。会長が「個人的なおすすめ」のページを作ったことに対抗して(笑)、私も特集ページを組みました。

当サイトのランキングでは、主に(というよりはほとんど)興行収入を上げる目的の、娯楽としての映画作品を取り上げてきました。しかし、映画というものが誕生しすでに100年以上という歴史の中では、そうではない作品も作られてきました。それが「プロパガンダ(政治宣伝)」目的の映画です。新しい政策や国家行事の宣伝のため、戦争の士気向上のため、思想統制のため、別の言い方ならば支配の道具として、製作された作品です。特筆すべきは、観客に対してメッセージを効果的にかつ強く伝えるために、映画の持つ魅力を最大限に引き出してしまっていることがあるという点です。第2次世界大戦以前はファシズム・軍国主義の国々を中心に、第2次大戦後の冷戦の中では特に社会主義陣営の国々を中心に、冷戦終結以降は民族主義的な色彩を帯びた国々で、こうした作品は作られてきました。その時代その国における状況や、国際関係を理解してからでないと、内容がわかりにくいかもしれません。また、これは過去のモノではなく、いつの時代でも作られる可能性があるということも、このページを見ているみなさんには考えてほしいと思います。

※当然のことですが、当サイトはいかなる目的や理由があろうとも、あらゆるプロパガンダ映画を一切支持しません。あくまで研究対象として、「映画はこのように利用されることがある」という事実をみなさんに紹介しています。映像をご覧の際には、自己責任でお願いします(笑)

ナチスのプロパガンダ映画たち

 

ナチスの党大会を「芸術」として記録

意志の勝利

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1934年、当時のドイツの独裁政党・国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス)の党大会を記録するために制作されました。映画に限らず、ナチスはあらゆるメディアを使って非常に巧妙に自分たちを宣伝していました。この作品は、女性舞踊家でもあったレニ・リーフェンシュタールが監督を務めました。サーチライトを使った光と闇の演出、独裁者ヒトラーや党幹部たちの演説シーン。映像美としては評価できるかもしれませんが、込められているメッセージを考えれば映画自体が持っている危険性はうかがい知ることができます。ちなみにこの映画は、授業や研究目的を除いて、現在でもドイツ国内での上映を禁止されています。

 

ベルリンオリンピックの華々しさ

オリンピア(民族の祭典)

民族の祭典【淀川長治解説映像付き】 [DVD]

こちらもナチス・ドイツの下で制作された、1936年のベルリンオリンピックの様子を映画化した作品です。スポーツの祭典の記録であるため、すぐにプロパガンダと決めつけるのは早いかもしれませんが、監督が『意志の勝利』と同じリーフェンシュタールであること、また実際の競技の様子とは別に撮り直しをしていたシーンがあったことなどを考えると、やはりこちらに加えてよいと思います。リーフェンシュタールは映画づくりに関しては間違いなく天才的な能力を持ってはいましたが、自らの映像に対する欲望を叶えるためにナチスに全面協力したこともまた事実であり、今日でも賞賛と批判の混じった評価をされています。

太平洋戦争中の日本の「国策映画」

  まさに「撃ちてし止まむ」スタイル

続 戦時下のスクリーン 発掘された国策映画 [DVD]

日本でも戦時体制の中、多くの作品が「国策映画」として送り出されていきました。ドキュメンタリー形式、ゼロから作ったオリジナルの作品など、多くの種類が制作されました。もちろん、戦意高揚と敵国への憎悪を駆り立てる内容だったことは言うまでもありませんが、空襲に備えた注意喚起のための作品など、より実用的な側面を持ったものもありました。
 
 

1945年公開のアニメ映画「桃太郎 海の神兵」。

海軍省が全面的に後援し、当時の日本のアニメの中では長編かつ高品質で制作されました。空挺作戦が題材です。軍がバックアップしているだけあって、もちろん戦意高揚が作品のメッセージで最も伝わってくるのですが、静かで平和な田園風景を描くなど、平和へのかすかな希望も見て取れます。実際、公開前には描写について軍からクレームがついたとか。

※本編が分割されていますが、YouTubeに続きがあります。

第2次大戦中、アメリカで制作されたプロパガンダ映画

こうした作品を世に送り出していたのは何も独裁国家(やそれに準じた国家)だけではありません。アメリカも大戦中にはプロパガンダ映画を多く作っていました。あのディズニーでもプロパガンダ映画は作られました。ミ○キーよりも、ド○ルドダックやグー○ィーなどといった主要な脇役キャラクターの登場が多い気がします。ディズニーに限らず、この頃はアメリカの有名作品がプロパガンダに参加しています。特徴はアメリカ映画らしく、敵国をおちょくる表現が随所に見られるという点でしょうか(とは言っても、アメリカンコミックはそもそもその側面が強いですが)。しかし共通して言えることは、作品全体から出てくる明るいテイストやジョークは、戦争の実態からは程遠いものだということです。

ディズニーが制作した映画「総統の顔」(Der Fuehrer's Face)

。なんと!1943年アカデミー短編アニメ賞受賞。

日本、ドイツ、イタリアの3か国(枢軸国)批判が題材です。特にヒトラーに対する揶揄が多いですが、ドナ○ドが「ハイル・ヒトラー、ハイル・ヒロヒト(昭和天皇)、ハイル・ムッソリーニ」と言っているシーンは衝撃的です。

同じくディズニーが制作した、「死の教育」なる不気味な題名の映画。おなじみのキャラクターは登場していませんが、絵のタッチはやはりディズニーです。しかし日頃のイメージとかけ離れています。

1943年にディズニーが制作した「空軍力の勝利」。ライト兄弟の飛行機の発明に始まり(彼らはアメリカ人なので、飛行機の元祖はアメリカだということを伝えたいようです)、第1次大戦の軍用機などを紹介した後は、ナチスや日本に対するアメリカ空軍と連合国の対抗について、細かく説明しています。

こちらも現在ではおなじみのアメリカン・ヒーローであるスーパーマン。日本への批判が題材です。もちろん悪役は日本人で、「ジャップ(日本人の蔑称)」という単語が出てきます。スーパーマンにとっては黒歴史なのかもしれません。

ソ連のプロパガンダ映画たち

 

「ナチとブルジョアお断り、革命の継続を!」

ロシア革命アニメーション コンプリートDVD-BOX

ソビエト連邦(1922~1991年)では、最初期から冷戦終結までの間、多種多様なプロパガンダ映画が制作されました。アニメ作品として作られたものが非常に多いです。5か年計画や第2次世界大戦に重なるスターリン時代の作品と、それ以降の作品に大別されます。前者の時代は「国を育てる」「国を防衛し侵略者を撃退する」といった単純でわかりやすいメッセージが目立ちますが、冷戦でアメリカなどの仮想敵と常に向き合うようになった後者の時代の作品では、資本主義陣営に対するネガティブキャンペーンや、東ドイツをはじめとする友好国との結束、さらにはアヴァンギャルド的色彩を使って社会主義の正当性や必要性を訴えるなど、「相手を意識した」内容が目立ちます。特に意外だったのは、アメリカ批判を行うアニメ作品。現実と異なるアメリカのイメージではなく、「アメリカにはモノやお金があって豊かな生活もある」ということを示し、その上で「金の亡者」としてこきおろしているのです。これら政治的メッセージを抜きにして観てみても、普段目にする邦画や洋画(ソ連的には「西側陣営の映画」といったところでしょうか)とは全く違う、独特のインパクトを持った雰囲気を楽しむことができます。

上記リンクのDVDに収録されている作品の、予告編です。

文化大革命期の中国映画

中国で起こったプロレタリア文化大革命(1966~1977)、略称・文革。一度は権力の座から離れていた初代主席・毛沢東が自らの復権を図るために発動した一連の政治の状態を指します。「紅衛兵」とよばれる若い学生などからなる集団による弾圧や破壊、知識人を農村へ追放するなどで混乱が深まり、多くの死者と社会の停滞をもたらしました。文革は政治キャンペーンであったがゆえに、あらゆるジャンルで多数のプロパガンダが行われました。ポスターなどが有名ですが、張本人である毛沢東を神格化する傾向が特徴です。もちろん、映画についても例外ではありません。

文化大革命といえば、というほど有名な歌である「東方紅」。なんとなくお察しの方もいるかもしれませんが、「東方紅」とは毛沢東のことを指します。文革期には国歌の代わりに使われ、日本でも当時の北京放送のリスナーを中心に知名度が高いということもあり、歌そのものが有名ですが、こちらはそれを演劇にし、撮影したものです。流れとしては、清朝末期の人々の様子から日中戦争、国共内戦、中華人民共和国建国までを物語としています。

こちらは厳密に言えばニュース映像ということになりますが、一種の記録映画といっていいでしょう。冒頭から太陽のような輝きを放つ毛沢東(決して彼の髪の毛が少ないからなんて言ってはいけません)の顔がロゴとして使われています。真っ赤な背景に連続して映し出される文字、音楽(音源がフニャフニャ状態ですが、やはり「東方紅」です)やナレーションと相まって、強烈なインパクトを残します。内容自体も非常に興味深く、当時は絶対的な書籍として使われていた『毛沢東語録』からの引用から始まり、本編では毛沢東が、後に失脚・死亡する林彪や自分の妻である江青とともに会議に出席する様子が映されています。しかし拍手しながら歩く姿といい、聴衆の反応の仕方といい、どこぞの国とそっくりな気がしてならないのですが。人がたくさんいるせいか、スケールだけはより大きいです。

まだまだ工事中です。項目は順次追加していきます。

~まとめ~プロパガンダ映画の分類

ここまでの作品は歴史上たくさん作られたプロパガンダ映画におけるほんの一部でしかありませんが、その一部を垣間見ただけでも、パターンが決まっているように思われます。

1.記録映画

国家が実際に行った事業やイベントを記録し、その様子を肯定的に宣伝するタイプのものです。ノンフィクションの広告、といったところでしょうか。観衆を「感動」させるために芸術的な演出を行うこともあります。このタイプのものは基本的に、国家機関が直接制作しています。ナチスがや中国が得意としたやり方です。

2.娯楽のカタチ

特にアメリカの作品に多く見られます。普段ならば政治的なキャンペーンとつながりのないようなキャラクターを使ったり、ソフトな印象を持つアニメに仕上げることにより、自然な形でメッセージを観衆に提供しています。国家の関与も間接的なだけに、より巧妙なプロパガンダと言えます。

ただしソ連の娯楽作品の場合、国家機関による制作なので、時として記録映画的要素も強く持っています。